蒼き星の守護者 第1章—[09]—[闇の中で生きる者達](4)

 闇の中で生きる者達(4)

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「離してください!!!」

「姉ちゃんよ、一体こんなところで何してんだー?良い子は家でおねんねの時間だぜ?」

 ラスは物騒な格好をした男に見つかり、少し走って逃げていたがどうやらもといた場所のすぐ近くの広場で捕まってしまったらしい。この男、よく見ると先程の闇ギルドの連中と同じ紋章を腕に付けている。どうやら任務から帰ってきた連中の仲間に偶然見つかり捕まってしまったようだった。

「ラスさん!」

「お姉ちゃん!」

 ラスの声を聞きウィル達が駆けつけてきた。

「ウィルさん!メルト!あぐっ・・・」

 ウィル達を警戒するその男は咄嗟にラスを胸元に引き寄せて見せつけるようにナイフをラスの喉に突きつけた。

「おいおいなんだてめぇらは?この姉ちゃんの仲間か?」

「お姉ちゃんに手を出さないで!!」

 喉元にナイフを突きつけられて苦悶の表情を浮かべるラスの姿を見せつけられたメルトはたまらず悲痛の声を上げた。少しほどナイフがその薄皮を裂き赤い筋が重力に従って下へと伸びていく。

「ラスさん!」

「ウィルさん、すみません・・・ずっと待っていようとしたんですが、見つかってしまって・・・必死に逃げたんですが捕まってしまいました・・・」

 ラスは自分のせいでウィル達に迷惑をかけたと感じ、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。ウィルは今この場をどう切り抜けるか考えていた。

(この距離だと流石に間に合わないだろうし、かといって魔法を不用意に人前で使うわけにもいかないし。どうしたものか)

「おー!ゼノムさん、でかしましたよ。よくこの者達を足止めしてくださいました。」

 そうこうしているうちに、後ろから先程グリンデュアと呼ばれていた男の声がした。ウィルが振り返るとそこには年齢にして三十半ば、肩の上までくるさらさらとした銀色の髪に瞳の色がわからない程細目の男が立っていた。後ろに引き連れているその他大勢のように隆々とした筋肉などはなく背筋が伸びてすらっとした体型ではあるが、その立ち方には隙がなく戦いに慣れているような印象をウィルは感じていた。

(こいつが闇ギルドのマスターか、他の奴らは見かけだけだけどこいつは少し厄介だな・・・。ラスも捕まっているし。)

「マスター、こいつ近くの路地にいたんで捕まえておきやしたが、そのお仲間さん達になんか用ですかい?」

「えぇ、そこにいる女と子供が大切なオーパーツを持って逃げた上にどこかに隠してしまいましてねぇ。隠した場所をお聞きしようとしていたところそのふざけた男に連れて逃げられまして。いやぁ、本当にゼノムさんが居てくださって良かったです。」

「へぇ~、こいつらがそんなねぇ。まあなんにせよお役に立てて良かったでさぁ!」

 逃げ場を失ったメルト達は縮まって震え、今度こそ終わりだと感じていた。そんなメルト達にグリンデュアが更に追い打ちをかける。

「さて・・・せっかく人が親切に優しく聞き出そうとしていたのに、手間を取らせてくださいましたねぇ。私、そんなにいろいろとされて許せるほど寛大ではないのですよ。さぁ、そろそろオーパーツの場所を教えてもらいましょうか?さもないとあなたのお姉さまのその綺麗な首がお体と離れて汚らしい地面に落ちてしまうことになりますよ?」

 「ひっ」

 そう告げたグリンデュアの声は先程までの穏やかな声ではなく怒りの感情があらわになった低い声で、細目をゆっくりと開きその冷酷な瞳が見えるようになっていた。そのあまりの怖さにメルトは先程までの余裕が完全に消え失せ声を詰まらせた。

「ウィルさん、私のことはいいからメルト達を連れて逃げてください!」

 自分の生死がかかっているラスはメルト以上の恐怖を感じているはずなのに気丈にもウィル達の身を案じていた。

「ラスお姉ちゃん・・・」「ごめんなさい。サーシャ達があんなことしなければ・・・」

 アレンとサーシャはこうなってしまったことは自分達のせいだと思い、涙をぽろぽろと流した。

「アレン、サーシャ・・・貴方たちは悪いことをしたのではないのでしょう?だから貴方たちは悪くないから、ね?だからウィルさん達と一緒に逃げて」

「そんな、ラスお姉ちゃんを置いて行けないよ!」「嫌っ!皆一緒じゃなきゃ嫌なの!」

「おやおや、美しい愛情ですねぇ。でも私はそんなもののために時間を無駄にしてしまっているのが大変不愉快なのですよ。早くオーパーツの場所教えていただけます?まあ多少面倒ですがそのお姉さまの首が落ちてもどちらでもいいので早くしてください。」

 グリンデュアが冷酷な言葉でメルト達を責め立てる。そして、目の前の状況に耐えられなくなったメルトは今まで必死に奴らの手に渡らないように守ってきたオーパーツの場所を言おうとした。

「オ・・・、オーパーツの・・・場所はこの奥の通路を」

「言うのは無駄だよ、メルト」

 しかし、その言葉はウィルによって遮られた。

「なんで!?お姉ちゃんが死んじゃう!もう無理だよ!」

 姉が殺されているのに何故止めようとするのか、制御できない感情に押しつぶされたメルトはウィルに対して泣き叫んだ。

「どうせ教えてもその後に殺されるだけだ。元から奴らに俺達を助ける気なんてないさ」

「あらあら、そんなに早く種明かしをしなくてもいいじゃないですか、せめてもの憂さ晴らしにこの状況を楽しみたかったのに」

「そん・・・な・・・」

 姉を助ける最後の希望が否定されたことでメルトは膝から崩れ落ちた。八方塞がりの状況にウィルは何かを決心したようだった。

「あの、グリンデュアさん・・・でしたっけ?一つ提案があるんですが、ここは俺達を見逃してくれませんか?」

「はぁ?何をバカなことをおっしゃっているんですか?」

「俺達を見逃してくれたらあなたたちのギルドは潰しません。どうでしょう?公平な取引だと思うのですが」

 ウィルがそう言った瞬間、周囲の連中が堪えきれずに吹き出していた。ラスやメルト達はウィルが言っていることについていけずにただぽかんとしていた。

「あっはっはっ、何言ってんだよこいつ!追い詰められて頭がおかしくなっちまったのか?」

「おいおい、可哀想に。誰か優しくしてやれよ!」

「何が公平だと言うのでしょうか?そもそも貴方たちはオーパーツの場所を喋って死ぬか、このまま死ぬかの二つしか選択肢がないのですよ?」

 グリンデュアだけは笑わずに、訳のわからないことを言ってきたウィルに不機嫌になっていた。

「では交渉決裂・・・ということでしょうか?」

「何を馬鹿らしいことを・・・。そもそも交渉なんてものはないのですよ。」

「わかりました。」

 その直後、ラスにナイフを突きつけていたゼノムの手が瞬時に凍りついた。

「っっぎゃあああああああああああああああああああああ!」

 腕に氷が纏わりついたのではない。文字通り手が凍ったのである。手が凍ったことによる想像を絶する痛みにゼノムはたまらず叫び声を上げた。そしてゼノムの叫び声で周囲が怯んだその刹那、ウィルが凄まじい勢いでゼノムに近づき、凍ったゼノムの腕に自身の掌底を打ち込んだ。凍りついて脆くなっているところに高速の掌打が叩き込まれたゼノムの腕は粉々に砕けた。そしてゼノムの手から解放されたラスをウィルは抱え上げ、元いたメルト達の元へと戻った。

「大丈夫ですか?ラスさん」

「えっ?あっ、あの?」

 ラスには今目の前で起こった出来事に頭が追いついていなかった。無理もない。おとぎ話の中でしか聞いたことのない魔法が今目の前で使われた上に、全てがほんの一瞬の出来事だったのだから。

「すみません、俺が至らないばかりに辛い思いをさせてしまいましたね」

 未だに事態に頭が追いついていないラスはウィルが言った言葉を全く理解できなかった。しかし、次第に、今自分がどういう状況にあるのかだけは理解してきた。

「あのっ・・・ありがとうございます。私はもう大丈夫なので、降ろしていただいてもいいでしょうか・・・その・・・恥ずかしい、ので」

状況を理解したラスは自分が今ウィルにお姫様抱っこされていることに恥ずかしくなってきたのか、降ろしてもらうことを要求した。

「あっ、すっ、すみません!」

 ウィルはこのままだとメルトに本当に痴漢呼ばわりされてしまうと思い急いでラスを降ろした。

「ラスさんはメルト達と一緒にここにいてください。少しばかりあいつらの相手してきますので」

「そんな、危険です!いくらなんでも無茶すぎます!」

 ラスはこの人数を相手に戦おうとしているウィルを止めた。

「大丈夫です。言ったでしょ?俺はこう見えてそこそこ腕には自身があるって」

 そういうとウィルは心配するラス達の不安を極力払拭するように微笑みかけて再び闇ギルドの連中と対峙した。その頃ゼノムは右腕が砕け散って地面をのたうち回り、周囲の男達は目の前の出来事が全く理解できてないようだった。グリンデュアに至っては先程開いた目をさらに見開いてそのうす茶色の瞳が完全にあらわになっていた。

「い、一体何が起きたというのです?」

 先程までずっと冷静に自分たちを追い詰めていたグリンデュアが狼狽えている姿はメルト達にとってとても新鮮に感じた。

「人がせっかく親切に提案してあげたのに・・・。まあ俺も”どちらでもよかった”んですけど」

 目の前の出来事に驚いたものの、所詮は一人で数ではこちら側に分があると思ったグリンデュアは部下達にウィルを殺すように命令した。

「た、多少は腕が立つようですが、流石にこの人数相手では厳しいのではないですか?さあ、皆さんあの男を殺してしまいなさい!」

 グリンデュアの声に我に帰った男達は一斉にウィルに向かっていった。その数はおよそ五十といったところか。先程古代魔法をラス達の目の前で使ってしまったのでもう隠す必要はないと決めたウィルは、周囲のマナを自らの右手に集約し、その右手を左下から右上に振り上げた。するとマナの力によって圧縮された空気が集団に向かって飛んでいき、到達した直後にその圧力が一気に解放された。解放された空気はより気圧の低い場所を求めて勢いよく四散し、その勢いで集団の大半を吹き飛ばして周囲の建物に激突させた。しかし何人かは吹き飛ばされないように咄嗟に物陰に隠れたり、吹き飛ばされた直後に受け身を取ることで風の攻撃を免れていた。そして今度こそウィルに襲いかかろうとしたのも束の間、次にウィルは集約したマナを相手の足元に設置した。そして顔の前にかざした手をグッと閉じると、それと同時に強烈な音が轟き地面が爆発した。凄まじい揺れで身動きが取れなくなったところに爆発によって生じた無数の石の塊が集団を襲う。防ぐ術も無く高速で向かってくる重たい石の塊を受け、強烈な衝撃に襲われた多くの人は体中の骨を折り地面に倒れ込んだ。

「なんてことだ・・・、おい、お前たち、やれ!!」

 あっという間に大半の手駒を失ったグリンデュアは自分の両脇に待機させていた最後の手駒をウィルへと向かわせた。自らのギルドマスターに命令された二人の男はそれぞれ剣を振りかぶり、ウィルへと斬りかかっていった。まず一人目の男は剣を腰に構えてウィルへと直進し、突き刺すような形で攻撃してきた。しかし、この攻撃に対して右足を引いて半身で躱したウィルは左腕で相手の右腕を掴んでひねり上げた。関節を決められた痛みで武器を落としてしまった男は顔を歪ませながらもなんとか蹴りでウィルに反撃しようとするが、逆に空いている右手で相手の後頭部を掴まれながら顔面に強烈な膝蹴りを叩き込まれ崩れ落ちた。そして二人目はウィルに剣を振り下ろそうと大きく振りかぶった瞬間に、前に出てきたウィルにその顔面を掴まれた。直後、その男に向かって雷が落ち、それをまともに受けた男は電気によって体の筋肉が痙攣して倒れた。

 そうして全ての手駒を失い、ウィルの圧倒的な力を目の当たりにしたグリンデュアは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

「さて、残りは一人だな」

 そう言って自分の方に向き直ったウィルにグリンデュアに思わず後ずさりしてしまった。

「お前のその力は一体なんなんだ!?」

「何って、ただの魔法だよ」

「嘘をつくな!そこまでこんな馬鹿げた威力の強力な魔法なんて見たことがない!それに詠唱も無しで発動なんかできるわけがないだろう!」

 グリンデュアの言っていることはある意味正しい。確かに魔法を使用するためには一般的に詠唱を必要としている。そして魔法の使用には術者が己の体内の気を変換したものが必要となるため、術者が持っている気の量以上の力を発揮することができない。”現代魔法”では。しかし、ウィルが使用しているのは”古代魔法”である。”古代魔法”は”現代魔法”のように術者が己の気を変換した”擬似マナ”を使用するのではなく、この世界に漂っている本物のマナを使用する。漂っているマナの総量は個人の気の総量とは比較にならないほど多い。そのためウィルはグリンデュアの言う馬鹿げた威力の魔法を連続で使用することができたのである。ちなみにウィルが何故詠唱無しで古代魔法を使用できたのかはわからない。それと同時に何故現代魔法に詠唱が必要なのかその理由も詳しくはわかっていない。いずれにせよグリンデュアは自分の予期しない圧倒的な力によって目の前で全ての手駒を失ったことに納得がいかない様子だった。

「そんな訳ないって言われてもね。ただの事実だし。」

「くそっ!くそおおおおおおおおおおおお!こんなところで!こんな訳のわからないやつに!」

 追い詰められたのかグリンデュアの言葉遣いは素が出ていた。追い詰められたグリンデュアはただひたすら叫びながら頭を掻き毟っていたが、そのとき不意にウィルの左足に固定された剣を見つけた。

「おい、お前、その腰に付けているのは剣か?」

「ああ、そうだ」

「なあ、お前も剣士の端くれなら魔法抜きで私と武術で決着を付けないか?流石にこのような男一人相手に魔法なんて卑怯な手は使ってくるのは剣士の志に反するだろう?」

 魔法を使われては勝ち目が無いと悟ったのか、グリンデュアは剣による決闘を提案してきた。今まで散々卑怯なことをしてきておいてどの口がそれを言うのかとウィルは思った。しかし、先程の魔法によって生じた大きな音を聞きつけて人が集まってくる気配がありウィルとしてもこれ以上魔法を使って騒ぎを大きくするのはまずいと思ったのか、グリンデュアの提案に乗ってやることにした。

「別に剣士ではないし、志なんてものもない。だが、魔法無しで戦いたいと言うなら付き合ってやる。ただし俺は剣を使わない。これでやる。」

そう言ってウィルは拳を前に出し、徒手空拳で戦うような構えを見せた。それを見たグリンデュアは口元を釣り上げた。そして自らの腰に付けていたブロードソードを鞘から抜くと自分の前に構えた。魔法どころか剣を使わないなんてコイツ正気か?などとグリンデュアは思ったがその方が都合が良いと思い口の端が自然とつり上がった。

「ははっ、後悔するなよ!?」

 素手のウィルとブロードソードを構えたグリンデュアが対峙する。どちらもなかなか動き出さず、周囲には緊張が走った。そして、しばらくしてグリンデュアの方が先に仕掛けた。先手必勝と言わんばかりにウィルにブロードソードの斬撃を連続で浴びせる。グリンデュアはそれなりの剣術の心得があるようで、連続の斬撃もただ闇雲に振るっているというよりも、どちらかというと良く言えば規則正しく、悪く言えば型の範疇を出ない同じような軌道の繰り返しだった。ウィルはそのような動きを見切っているのか全ての斬撃を紙一重の距離で躱していた。そしてがら空きだった腹部を狙って拳の重い一撃を叩き込んだ。鳩尾に強烈な一撃をくらったグリンデュアは、呼吸をすることができずに胃酸をまき散らしながら片膝をついた。ウィルはそんなグリンデュアにとどめを指すわけでもなくただその様子を見つめていた。グリンデュアはやがて立ち上がると再びウィルに向かって斬りかかってきた。先程と全く攻撃を繰り返しているようだったが、今度は不意に先程倒れた時に掌に潜ませていたのか、砂埃をウィルの顔面目がけて投げつけてきた。そのような攻撃にウィルはこの国の剣士は目潰しなんてこともするのかねと皮肉交じりに思いながら軽く距離を取って躱した。そして必死の目潰しを躱されたグリンデュアは、これが最後の一撃と言わんばかりに全力を込めて剣を振り下ろしてきた。対するウィルも、そろそろ潮時かと思い、その一撃を横にそれて躱すと、右手で相手の手首を掴んで下に引っ張ると同時に左手で二の腕部分を押し上げ、相手の勢いを利用してその身体を宙に回転させるようにして地面に背中から叩きつけた。己の力とウィルの力を足し合わせた衝撃を後頭部と背中から受けたグリンデュアは至るところの骨を折りながら気を失った。

 こうしてウィルとグリンデュアの戦いは呆気なく決着がついた。闇ギルドの連中すべてを片付けたウィルは体についた土埃を払いひと呼吸を整えるとラス達の元へ戻ってきた。

「ウィルさん!大丈夫でしたか!?」

「ウィル君平気?」

「兄ちゃんとっても強いんだね!」「魔法すごいのー」

 目の前で行われたウィルの圧倒的な戦いにラス達はしばらく呆然としていたが、戦いが終わったことをようやく理解すると戻ってきたウィルに各々声をかけた。

「グリンデュアのやつ、剣士とか言っちゃって目潰ししてくるなんて信じらんない!」

 メルトは卑怯な手段を使ってきたグリンデュアに憤っているようだった。それに対してウィルは

「実は俺も魔法使わないとか言っておきながら身体能力を強化する魔法使ってたからあまり人のことは言えなかったり」

と苦笑混じりに言っていた。

「でもウィル君魔法使えるなんてすごいね!魔法ってあんなことできるんだ!」

「あんな強力な魔法なんて初めて見ました。著名な魔導師の魔法でもこれほどまでの力は無いですよ。それに詠唱が無い魔法なんて聞いたことないです。」

メルトもラスも初めて見た魔法に興味津々なようだった。

「すみません、今日見た魔法のことは秘密にしてください。この魔法は一般的に使用されている魔法と違って普通の力ではないんです。もし知れ渡ってしまうと何かと面倒なことが起きかねないので・・・」

「大変な事情があるようですね・・・。大丈夫です!ウィルさんは私達の命の恩人ですしウィルさんを大変な目に合わせてしまうようなことは絶対にしません。」

 ラスもメルトもアレンもサーシャも皆このことは他の人には絶対に言わないと約束してくれたのでウィルはほっと胸をなでおろした。しかし、他の人には言わないといっても皆滅多に見ることのできない魔法に興味津々のようでそんな皆からウィルは質問攻めにあっていた。そして、しばらくすると遠くの方から馬の足音や金属のぶつかる音が大量に聞こえてきて、その音がウィル達のいる方へと近づいてきた。

「これは何事だ!?」

 整った装備や掲げている旗を見ると、どうやら先程の戦闘による激しい音を聞きつけて王国騎士団がやってきたようである。

「こ、これは・・・」

 

 駆けつけた王国騎士団が見たものは、第一級の犯罪ギルドであるフアラの面々が尽く地面に倒れ込んでいる姿と、あちゃー、見つかったーという顔をしているメルト達であった。ラスやメルトと王国騎士団を率いていたその男は顔見知りのようで、その男はラス達に話しかけてきた。

「ラス!メルト!お前達なぜこのようなところに?」

「リアガンさん!これには、その、いろいろと事情がありまして・・・」

 ラスはその騎士団を率いているリアガンにメルトによる補足も交えて今までの出来事を説明した。

「そうか・・・それは災難だったな。いずれにせよお前達が無事で良かった。お前達になにかあったらケヴィンとミシェルにあの世で怒られてしまうからな」

 ケヴィンとミシェルというのはどうやらラスとメルトの両親のことらしい。このリアガンという男はラスとメルトの両親の生前にいろいろと親交があったようだ。

「ところで、こいつらは手配されているフアラの面々ではないか?まさかグリンデュアの姿もあるとは・・・。これをまさかお前達がやったのか」

 そういったリアガンの疑問にラスは肯定した。

「こちらのウィルさんに危ないところを助けていただいたんです。ウィルさん結構強いんですよ?」

 ウィルのことを語るラスはどこか嬉しそうだった。

「おお、貴方がラスとメルトを助けてくださったのですか!しかし、この凶悪で手がつけられなかったギルドを一人で倒してしまうとは・・・なかなかお強いですな。」

 横で俺たち忘れられてる?とか忘れられてるのーとかいう小声が聞こえてきたが、ウィルは無視してリアガンからの賞賛責めを謙遜しながら受け流していた。

「しかし、この地面が爆発したような跡や焼け焦げたような臭いは一体何が・・・」

 うっ、とウィル達の身が硬った。魔法のことは言えないしどう切り抜けるか・・・と悩んで焦っていると咄嗟にメルトが

「あ!これはお姉ちゃんがま~た薬の調合に失敗して危険な爆薬作っちゃって、それを偶然持ち合わせてたからあいつらに向かって投げたの!」

「なっ・・・なっ・・・!メルト!?」

 咄嗟に自分のせいにされて度々危ない薬を作る人みたいな扱いをされたラスは顔を真っ赤にしてメルトを睨みつけた。

「ラス・・・お前なぁ、ミシェルのような調合師になりたいって張り切るのはいいが、これはいかんだろ・・・」

リアガンに咎められたラスは自分じゃないと反論したい気持ちもあったが、ウィルの魔法のことを喋る訳にもいかないので、はい・・・すみません・・・と顔を真っ赤にして目尻にうっすらと涙を溜めながら小さな声で謝っていた。そして更にメルト、後で覚えてなさいよと付け加えた。それを見たメルトは額に汗を垂らしながらあさっての方向を向いて知らないふりをしていた。

「何はともあれお前達が無事で良かった!このことは正式にシャムロックがフアレの撲滅に貢献したとブルメリア王国の方へ報告しておく。そのうち正式に褒美が渡されるだろう」

 撲滅したのはシャムロックではなくてウィルですと言いたくなったラスではあったが、それを言ってしまうとまたいろいろと聞かれてうっかり魔法のこともばらしてしまいそうだったため、リアガンの言ったことを特に訂正はしなかった。一通りの後始末が終わったあとはメルトに付き添ってオーパーツであるセナおばさんの装飾品を回収した後は王国騎士団の面々にシャムロックまで送ってもらった。道中でアレンとサーシャをそれぞれの家へ送り届け、更にセナおばさんの家によってその装飾品を返そうとした。するとセナおばさんから、このようなことに巻き込んでしまった詫びと、二人を救ってくれた礼としてその装飾品を与えられた。そして長い一日を終えてようやくシャムロックに戻ってきたラス達は一息付いていた。

「あー、本当に疲れた」

「もう、本当に心配したんだから!二度とあんな無茶はしないで!」

「ごめんね、お姉ちゃん。ウィル君もありがとう!」

「いやいや、二人には世話になりっぱなしだったから、力になれて良かった。」

「そういえば、ウィル君は今日どうするの?もし宿とかとってなかったら家に止まっていく?」

「是非家で休んでいってください。今日の俺にご馳走したいので」

「そんな!悪いですよ!・・・と言いたいところなんですが、お金も無くてお腹がすいているので甘えさせていただいて貰ってもいいでしょうか・・・?」

 先程闇ギルドの連中と戦っていたときはあんなに頼もしかったウィルがとても情けない表情をしているギャップにラスとメルトは思わず笑ってしまった。こうしてウィルはラス達の行為に甘えて彼女らの家でもあるギルド~シャムロック~に泊まっていくことにした。

~翌朝~

 ウィルは外から聞こえる騒々しい騒ぎの音で目を覚ました。なんだろうと思って服を着替えて下に降りていってみると、早速昨日の出来事が王国中に公開され、そのことを聞きつけた街中の人がギルドに依頼をしたいと押し寄せていたのである。ウィルより先に起きていたラスとメルトはそんな人達の対応に追われていた。

「ラスさん、メルト、おはようございます!なんだかすごいことになってますね」

「リアガンさんったら、お前達の活躍が嬉しくて張り切ってしまったとかいって街中に昨日のことを触れて回ったんだそうです。そしたらこんなことになってしまいまして・・・」

「ほんとだよ!この人達もいつもだったら全然依頼なんてしてくれないくせに!急に手のひら返しちゃってさー!」

 こんなことになる原因を作ったリアガンと急に態度を変えた街中の人になんだかラスとメルトは怒っていた。

「はは、良かったじゃないですか!これならギルドやめなくてすみそうですね。」

「ウィルさん・・・本当にありがとうございます」

「それじゃあ俺はこれで失礼します。ラスさんのおかげでディガーの技能検定も取れたし、また仕事を探しながらいろいろと遺跡を巡ってみたいと思います」

 これ以上ラス達の世話になるのは悪いと思ったウィルは、そういってシャムロックを出ていこうとした。しかし、そのときラスに呼び止められた。

「あの、ウィルさんのおかげでなんとかギルドは続けられそうなのですが、・・・えと、あの、その・・・人手が足りてないのでもしウィルさんさえよければなんですが・・・、私達のギルドに入っていただけませんか・・・・?」

 その言葉はラスなりに必死にウィルにここにいて欲しいという思いを伝えたかったようだ。そのような言葉にウィルは

「喜んで」

 とすぐに返事をした。もし断られたらどうしよう・・・と思っていたラスはウィルの返事に表情を明るくした。

「これからよろしくね、”ウィル”!」

「よろしくお願いします、ラスさん」

 ウィルのその言葉に先程まで明るかった表情が若干曇った。

「メルトのことはメルトっていうのに私だけさん付けするんですね。」

 なぜかわからないがラスは拗ねているようだった。その言葉にウィルは困ったような表情を浮かべたが、その後すぐに笑顔で言った。

「これからよろしく、”ラス”」

 その言葉にラスは表情をぱぁっと明るくした。すると一人で依頼の対応をしていたメルトがしびれを切らしたのかウィルとラスに向かって叫んだ。

「ちょっと二人共こっち手伝ってよー!」

こうして今日もこの街に小さな幸せが一つ増えたのであった。

 

–ウィル編第一章「陽だまりの街と白詰草」 完–

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